懐かしのアニメ「電脳冒険記ウェブダイバー」を再評価
祝!サブスク配信解禁
大昔のテレビ番組では、平日の午後5時〜6時ぐらいから沢山のアニメ番組があった。
小学生だった当時の筆者も、様々なアニメを見ていた覚えがある。
「電脳冒険記ウェブダイバー」は、割と見た覚えのあるアニメの一つだ。
しかし、うっかり見るのを忘れて悔しい思いをしたことが何度もある。
当時は見逃し配信すらなく、ビデオデッキで予約録画するなら、あらかじめテープをセットしなければならなかった。
幸いにも令和に入ってから、生誕20周年記念としてBD-BOXがリリースされ、更にはサブスクリプション配信も解禁された。
このたび全話を一通り見たので、懐かしさを込めて感想を書いていく。
SNSとVRの予言者
西暦2100年、世界はコンピュータ・ネットワーク「ワールド・リンク」によってひとつに結ばれた。ダイバーランドに住む小学生、結城ケントは、ネット内に作られたテーマパーク「マジカルゲート」でいつものように遊んでいたが、ゲートは謎のプログラム・デリトロスに侵略され、子供たちが閉じ込められてしまう。その中にはケントの弟のカイトも含まれていた。なんとか現実世界に逃げ帰ったケントに対し、ゲートの守護プログラムである正義のウェブナイト「グラディオン」は、子供たちを助け出すため、ウェブダイバーとなって共に戦おうと提案するのであった……。
あらすじだけだと特に古くないように見えるが、放送されたのは「2001年」である。
そもそも「インターネット」自体が珍しかった時代*1に、SNSや仮想空間(VR)を彷彿とさせる「マジカルゲート」というアイデアは、先見の明があったと言える。
マジカルゲートへ突入するシーンは、ちょうどウェブダイバーより3年前に公開された映画「マトリックス(1999年)」を彷彿とさせる描写だった。
ところでデリトロスの攻撃が作中の現実世界(リアルワールド)に悪影響を与える話は、これを書いている現代では「サイバーテロ」として、大きな社会問題になっている。
ファイルを暗号化して身代金を要求するランサムウェアにより、企業や病院のシステムが使い物にならなくなる事件は、ニュースで見かけた人もいるはずだ。
また「DIVE15 黒い子守唄!ウェブモンスターのわな」にて、デリトロスの催眠術に掛けられた人々が暴動を起こす描写は、「エコーチェンバー現象」や「フィルターバブル」などで語られる、コロナ禍に起きた様々な事件を思い出すとまったく笑えない。
3DCGは残念だけど……
当時は気にしていなかったが、大人になってから見ると3DCGで作られたグラディオンたちがほとんど動かないのが気になって仕方がない。
特にガリューン戦では、ストーリー的には盛り上がるのに肝心のバトルシーンは「え?これだけ??」という部分があった。
オープニング映像では他のウェブナイトも含めてキビキビと動くのに、アニメ本編ではほとんど動かない。これを通称「OP詐欺」というらしい。
これはアニメ制作に関わったネギシヒロシ監督も、彼のツイート(ポスト)にて後悔している。
アニメ人生の中で後悔した3作品。
— ねぎし ひろし (@tsukumotakumi) 2023年2月3日
①テッカマンブレードでキーアニメーターを集められなかった事。
②ウェブダイバーでメカパートを3DCG制作にした事。
③妖逆門で代理店を入れなかった事。
要因は
①はスケジュール不足。
②は低予算だった。
③宣伝、広告がほぼ出来なかった。
今更の懺悔ですね。
ところで最近の3DCGでは、複雑なメカだけでなくセル画で書いたようなアニメの登場人物までで描けるようになった。
「蒼き鋼のアルペジオ -ARS NOVA-」は10年前の古い作品だが、まるで宇宙戦艦のような複雑なメカニックだけでなく、可愛らしいキャラクターまでオール3DCGで作られている。
是非とも「電脳冒険記ウェブダイバー」をリメイクするなら、高品質のセルルック3DCGで作って「OP詐欺」のレッテルを覆してほしい(サンジゲンさんどうです?)。
さて、今まで3DCGネタばかり書いてきたが、ストーリーを改めて見てみると、子供だましで終わらない王道かつシリアスな物語が多かった。
その中で強く印象に残ったエピソードは、悪のプログラム「デリトロス」の手先になったクラスメイトである浅羽ナオキを、主人公であるケントが救おうとする展開だ。
特に「DIVE23 めざめよ! ナオキ!」では、最初期よりマシになった3DCGと高クオリティの手書きアニメと声優さんによる熱演も相まって、手に汗握る展開と言っても過言ではない。
グラディオンの涙
ケント「これは…アオイちゃんがグラディオンのために作った御守り…」
グラディオン「人間の幸福とは、生涯に何人の友が作ったかで決まる…たくさんの友に囲まれ結城ケントと言う親友に出会えた私は幸せだった…」
ケント「グラディオン!なんだよいきなり!」
グラディオン「ケント…親友として約束して欲しい、私のために泣くなケント…私の心はいつも君と一緒なのだから」
ケント「グラディオン…」電脳冒険記ウェブダイバーの最終回 - 初回・最終回まとめ@wiki(エンディングドットコム・ミラー) - atwiki(アットウィキ)より引用
ところで、これは最終回のセリフだが、一番泣きたかったのはグラディオンではないか?
ケントの相棒であるグラディオンは、今でいうところの異世界転生したウェブナイト*3である。
その正体は「DIVE48 伝説の戦い! 百万年の時を超えて」を観てほしいが、信頼できる仲間に裏切られ、過去の自分を知るクロルが目の前で戦死する(「DIVE40 時の放浪者!緑の髪の少年」)という悲劇に遭っている。
それでも決して涙を見せず、ストイックにケントと共にデリトロスを倒してきたのだ。
そんなグラディオンと共に戦ってきたケントが、約束を忠実に守ろうとして限界に達したときの姿は、52話分の重みを感じた。
OP詐欺と言うなかれ(まとめ)
20年前のアフレコの風景が蘇り、当時の皆の声が聴こえる気がして。グッと来る1日でした。ウェブという言葉もまだ目新しかった。VRもまだSFみたいな気がしてた。そんな時代に電脳世界を舞台に生き生きとこの作品を描いたクリエイターの皆様には20年後まで見えていたのでしょうかぴょこ#ウェブダイバー https://t.co/iLXvIjH5YE
— 甲斐田ゆき (@KAIDA_YUKI) 2021年6月20日
このポストは、倉知ショウおよびカロンの役をされた甲斐田ゆきさんの発言である。
大人の事情に振り回されたとはいえ、世に出たばかりのインターネットと当時はなかった仮想空間をモチーフにした冒険活劇は、今見ても新鮮だった。
また、主題歌をバックに蒸気機関車から巨大ロボットに変形するグラディオンは、幼い頃に見た勇者王ガオガイガーを彷彿とさせる描写でテンションが上がる。
制作に関わった当時の方々のインタビュー記事(前編・後編)によれば、やはり「勇者シリーズ」に続くものを作ろうとしたそうだ。
ウェブダイバーは優れた脚本家の方々によって好視聴率をあげる事が出来ました。
— ねぎし ひろし (@tsukumotakumi) 2022年6月23日
その中で重要な回を数多く書いて頂いた久保田雅史様の訃報を本日知りました。
BD-BOXの特典用のドラマCDの脚本も久保田様に書いて頂きました。本当に有難うございました。
ご冥福を、心よりお祈り申し上げます。合掌
また昨年に亡くなられた久保田雅史さんなど優秀な脚本家の方々により、熱い物語に仕上がっている。
せっかくサブスク配信が解禁されて、誰でも見られるようになったのだから、ストーリーを再評価してほしいと筆者は思う。
なお筆者が確認した範囲では、冒頭のバンダイチャンネルだけでなく、「DMM TV」や「Amazon Prime Video(要FODチャンネル加入)」でも見られる。
ありがとう、グラディオン。